公益通報者保護法改正で企業がすべき対応と窓口見直し

2026年12月、改正公益通報者保護法が施行されます。通報者探索の禁止や刑事罰の新設など、企業の対応が問われる改正です。では、自社の通報窓口は従業員に知られ、実際に使われているでしょうか。本記事では、改正のポイントと施行までに企業が進めたい対応を整理します。そのうえで、形だけで終わらない窓口づくりの考え方を解説します。

2025年に成立した改正法は2026年12月1日に施行されます。通報者を探す行為や通報を妨げる行為の禁止、通報を理由とする解雇・懲戒への刑事罰などが新たに加わり、企業には規程の改定にとどまらない運用面の見直しが求められます。

改正の柱は「通報者を守る仕組み」の強化

消費者庁『公益通報者保護法の一部を改正する法律(令和7年法律第62号)概要』(2025年)によると、改正法は2026年12月1日に施行されます。

主な改正点の一つが、正当な理由なく通報者を特定しようとする通報者探索の禁止です。

もう一つが、通報をしないよう求めるなどの通報妨害の禁止です。

これまで指針で防止措置が求められていた内容の一部が、法律上の禁止行為として明確に位置づけられました。

保護の対象となる通報者の範囲も見直され、フリーランスとして業務を受託している人も対象に加わります。業務委託の関係が終わってから1年以内の人も含まれます。

社員だけでなく、業務を委託しているフリーランスからの通報も想定した窓口運営が必要になります。

さらに、従業員300人超の事業者に課されている体制整備義務についても、従業員への周知が義務の内容として明示されるなど、実効性を高めるための見直しが行われています。

法改正にあわせて、消費者庁は事業者向けの法定指針と指針の解説も改正しています。

その内容は日本商工会議所も会員向けに案内しています。

法律の条文だけでなく、改正後の指針と解説もあわせて確認することが大切です。

そのうえで、自社の内部規程や通報対応の運用とのずれがないかを一つずつ点検しておくことが、実務上の第一歩になります。

通報者を「探さない・妨げない・罰しない」が明文化

刑事罰の新設と「1年以内」の推定規定

企業への影響が最も大きいのが、通報を理由とする解雇・懲戒への罰則です。

消費者庁『公益通報者保護法の一部を改正する法律(令和7年法律第62号)概要』(2025年)によると、通報を理由に解雇や懲戒を行った場合の罰則が設けられました。

行為者個人には6月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金、法人には3,000万円以下の罰金が科されます。

刑事罰の対象は、通報を理由とする解雇・懲戒に限られます。配置転換などそのほかの不利益な取扱いも、法律で禁止されています。

あわせて、通報から1年以内に行われた解雇や懲戒は、通報を理由としたものと推定する規定も設けられます。

この場合、企業側が「通報とは無関係の処分である」ことを説明しなければなりません。

正当な人事権の行使であることを示すには、人事評価や処分の判断根拠を日頃から記録しておくことが欠かせなくなります。

この改正によって、現場の管理職の言動が会社のリスクに直結しやすくなります。

「誰が通報したのか」と部下に問いただす、通報をほのめかした社員を業務から遠ざけるといった行動は、悪気がなくても問題になりえます。

法務や人事だけでなく、管理職一人ひとりが改正内容を理解している状態をつくることが重要です。

改正対応の前に直視したい「使われない窓口」の実態

窓口が従業員に知られ、信頼されていなければ、不正の早期発見という制度の目的は果たせません。公的調査からは、制度があっても通報が集まらない実態が見えてきます。

制度を導入していても通報ゼロの企業がある

消費者庁『民間事業者の内部通報対応 実態調査(令和5年度)』(2024年)によると、内部通報制度を導入している事業者の30.0%は、年間の通報受付件数が0件でした(導入事業者n=2,448)。

同調査では、規模が大きい事業者ほど受付件数が多い傾向も示されています。

それでも、制度を整えただけでは通報が寄せられるとは限らないことがうかがえます。

ご相談いただく企業でも、内部通報制度を導入しているものの通報がほとんどない、あるいは従業員が制度の存在を知らないという状態が見られます。

通報がないことは、問題がないことを意味しません。

声を上げにくい雰囲気や窓口への不信感によって、問題が水面下にとどまっている可能性も考えられます。

通報が集まらない窓口では、不正やハラスメントが外部への告発や報道、SNSでの拡散といった形で表面化するおそれがあります。

社内で早く把握できていれば小さな是正で済んだ問題が、企業の信用を揺るがす事態に発展しかねません。

改正法への対応は、窓口が実際に機能しているかを点検する機会でもあります。

窓口の設置と「機能している」はイコールではない

知られていない・信頼されていない窓口は使われない

従業員側の認知にも課題があります。

消費者庁『内部通報に関する意識調査(就労者1万人アンケート)』(2024年)は、常時従業員3名以上の事業者に勤める全国15〜79歳の就業者を対象としています。

この調査で、内部通報制度を「知らない」と答えた人は36.5%でした。

窓口を設置していても、存在や使い方が伝わっていなければ選択肢にすら入りません。

通報した後の対応も、窓口への信頼を左右します。

消費者庁『内部通報に関する意識調査(就労者1万人アンケート)』(2024年)では、通報経験者の17.2%が「後悔している」と回答し、その理由で最も多かったのは「調査や是正が行われなかった」でした。

勇気を出して通報しても何も変わらなければ、本人だけでなく周囲も「言っても無駄だ」と受け止めてしまいます。

改正法で通報者保護が強化されても、従業員が「安心して使える」「使えば動いてくれる」と感じなければ、通報は増えません。

窓口の存在を知らせる周知、気軽に声を上げられる受付のしやすさ、通報後のフィードバックをセットで見直すことが、法対応と制度の実効性を両立させる鍵になります。

どれか一つが欠けても、窓口は使われにくくなります。

内部通報制度とは? 制度の詳細や内部通報制度を外部システムに委託するメリット
通報窓口の実効性を高めたい管理職・人事の方へ

法改正への対応を形式だけで終わらせないためには、従業員が安心して声を上げられる経路を整えることが大切です。匿名のまま相談でき、窓口とのやり取りを続けられる仕組みは、通報のハードルを下げる選択肢の一つです。

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施行までに企業が進めたい対応ステップ

施行までに取り組みたいのは、規程と体制の見直し、通報者を守る運用ルールの整備、管理職への教育と従業員への周知の3点です。300人以下の企業も、努力義務にとどまるからといって後回しにしないことが望まれます。

内部規程と通報対応体制を点検する

まず、内部通報規程が改正内容に対応しているかを確認します。

通報者探索や通報妨害の禁止、不利益な取扱いの禁止を規程に明記し、違反した役職員を懲戒の対象とすることを定めておくと、社内への抑止力になります。

通報できる人の範囲についても、退職して1年以内の人や役員、業務委託の関係が終わってから1年以内を含むフリーランスなど法の保護対象を反映させておくことが必要です。

次に、通報対応を担う公益通報対応業務従事者の指定状況を見直します。

従業員300人超の事業者には従事者の指定が義務づけられており、改正法ではこの義務の履行を確保するための行政措置も強化されています。

受付・調査・是正をそれぞれ誰が担い、どこまで情報を共有するのかを文書で定めます。

あわせて、担当者が守秘義務を理解しているかも確認しておきます。

300人以下の事業者は、体制整備が努力義務とされています。

ただし、通報を理由とする不利益な取扱いの禁止は、事業者の規模を問わず適用されます。

社内に窓口がなければ、従業員が社外に通報先を求めることになりかねません。

まずは相談先を明確にして従業員に伝え、段階的に体制を整えていくのが現実的です。

規程・運用・教育の3点を施行前にそろえる

通報者を守る運用ルールと管理職教育

規程を整えても、運用の場面で通報者が特定されてしまっては意味がありません。

指針の解説では、調査の際に通報者が特定されないよう、方法に十分配慮することが望ましいとされています。

たとえば、通報内容とは別の名目で資料を確認する、関係者へのヒアリングの順序を工夫するといった方法です。

情報にアクセスできる担当者を限定し、記録の管理方法を定めておくことも欠かせません。

管理職への教育も重要です。

部下から相談を受けた管理職が、悪気なく「誰から聞いたのか」を周囲に確認したり、相談内容を他の社員に話したりすることがあります。

こうした行動は、通報者探索や情報漏えいにつながりかねません。

改正内容とあわせて相談を受けたときに取るべき行動を具体的に伝え、研修などで繰り返し確認しておくことが大切です。

従業員への周知も、施行前に進めておきたい対応です。

窓口の連絡先や利用方法に加えて、匿名でも通報できることや、通報を理由とした不利益な取扱いが法律で禁止されていることも伝えます。

伝える場としては、社内ポータルや研修、入社時の案内などがあります。

一度の告知で終わらせず、定期的に発信することで認知が定着していきます。

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通報が集まる窓口にするための工夫

法改正への対応を窓口の実効性向上につなげるには、声を上げるハードルを下げ、通報後のやり取りを通じて信頼を積み重ねることが欠かせません。その土台になるのが、匿名性と対話を両立できる経路の整備です。

匿名と対話を両立できる経路を用意する

通報をためらう大きな理由の一つが、身元が知られることへの不安です。

一方で匿名の通報には、通報者に追加で事実関係を確認できず調査が進みにくいという課題があります。

消費者庁『公益通報者保護法に基づく指針(令和3年内閣府告示第118号)の解説』(2021年、2026年3月改正)でも、匿名の通報者と連絡を取る方法として、チャットなどの専用システムの導入が例として挙げられています。

匿名のまま窓口とやり取りできれば、通報者は身元を明かさずに事実関係を補足できます。

窓口側も、調査の進捗や結果を通報者に伝えられます。

指針では、書面で通報を受けた場合、是正措置をとったときや不正がなかったときは、その旨を通報者に通知するよう求めています。

通報後の経過が見えることは、窓口への信頼を高めるうえでも重要です。

メールや電話に比べて、手元の端末から気軽に投稿できる仕組みは、通報の心理的なハードルを下げやすくなります。

証拠となる資料を添付しやすければ、事実確認の精度も高まります。

ただし、仕組みを入れるだけで通報が増えるわけではありません。

経営層からのメッセージや研修とあわせて、窓口を使うことが歓迎される雰囲気をつくっていくことが大切です。

匿名のまま対話できる経路が通報のハードルを下げる

匿名通報窓口を活用した導入事例

みんばこ導入企業(金融事業・融資・ファクタリング・集金代行事業、3,000名〜)の事例を紹介します。

同社は、社内の問題が外部に流出した経験から体制整備を進めました。

根本原因は二つあると考えたそうです。

一つは、自分の行為が会社にどう影響するかの認識が薄い「悪い意味での第三者視点」です。

もう一つは、問題を見ても伝える義務も手段もなく、自分には関係ないとする雰囲気でした。

導入後は、電話やメールよりも投稿のハードルが下がり、窓口への連絡が大きく増えたといいます。

法務コンプライアンスの管理職は「今までは窓口への連絡も月に一件あるかないかでしたが、今では数件〜十数件連絡が来る月もあります。

」と話しています。

同じ管理職は「一番良かったのが匿名のままチャットできることと、ファイル添付が容易なことです。

」とも語っています。

匿名のままやり取りでき、ファイルも添付できるため、事実確認に必要な証拠や信憑性を当事者や周囲が補強できるようになりました。

その結果、業務の効率化にもつながっているとのことです。

導入から日が浅い段階での声であり、どの企業でも同じ成果が得られるとは限りません。

それでも、通報の経路を見直すことが窓口の活用に影響しうることを示す一例といえます。

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よくある質問

Q. 改正公益通報者保護法はいつから施行されますか?

A. 改正法(令和7年法律第62号)は2026年12月1日に施行されます。施行後は、通報者探索や通報妨害の禁止、通報を理由とする解雇・懲戒への刑事罰などが適用されます。規程の改定、担当者や管理職への教育、従業員への周知には一定の準備期間が必要です。施行日の直前ではなく、早めに自社の現状を点検し、対応計画を立てておくことが望まれます。

Q. 従業員300人以下の企業も対応が必要ですか?

A. 従業員300人以下の事業者では、内部通報体制の整備は努力義務とされています。ただし、通報を理由とした解雇や懲戒などの不利益な取扱いの禁止は、事業者の規模にかかわらず適用されます。社内に相談先がなければ、従業員が外部に通報先を求めることにもなりかねません。まずは相談先を明確にし、通報者の秘密を守るルールを定めるなど、できる範囲から整えておくと安心です。

Q. 匿名の通報も受け付けるべきですか?

A. 身元が知られることへの不安は、通報をためらう理由になりえます。匿名での通報を受け付けることは、声を上げるハードルを下げるうえで有効です。一方で、匿名だと追加の確認ができず、調査が進みにくいという課題もあります。消費者庁の指針の解説でも、匿名の通報者と連絡を取る方法の工夫が示されています。匿名のままやり取りできる仕組みを用意すれば、調査の質と通報のしやすさを両立しやすくなります。

Q. 通報者探索の禁止とは、どのような行為が問題になりますか?

A. 正当な理由なく、通報者が誰であるかを特定しようとする行為が対象になります。たとえば、通報内容から心当たりのある社員に「通報したのはあなたか」と問いただす行為や、メールの送信履歴などから通報者を割り出そうとする行為は、改正法の趣旨に反するおそれがあります。管理職が悪気なく行ってしまうこともあるため、具体的な場面を例示した教育が大切です。

Q. 通報後、通報者にはどこまで結果を伝えればよいですか?

A. 消費者庁の指針では、書面(メールなどの電子的な記録を含む)で通報を受けた場合に、是正に必要な措置をとったときや、調査の結果不正が認められなかったときは、その旨を通報者に通知することが示されています。通知は、適正な業務の遂行や関係者の秘密、プライバシーなどに支障がない範囲で行います。調査が行われたのかどうか分からないままでは、窓口への信頼が損なわれます。伝えられる範囲で経過と結果を知らせる運用を、あらかじめ定めておくことが大切です。

Q. 社内窓口と社外窓口は両方設けるべきですか?

A. 法律上、社外窓口の設置は義務づけられていません。ただ、経営幹部が関与する不正など、社内窓口には相談しにくい事案もあります。弁護士事務所や外部サービスを活用した社外窓口を併設すれば、通報者が状況に応じて相談先を選べるようになります。どちらを設ける場合も、通報者の秘密の保持や不利益な取扱いの防止といったルールを共通して徹底することが重要です。

まとめ

この記事のポイント
  • 改正公益通報者保護法は2026年12月1日に施行され、通報者探索・通報妨害の禁止や通報を理由とする解雇・懲戒への刑事罰などが新たに加わる
  • 通報後1年以内の解雇・懲戒は通報を理由と推定されるため、人事評価や処分の判断根拠を日頃から記録しておくことが重要になる
  • 制度を導入していても通報が集まらない企業があり、窓口の認知と信頼の不足が実効性を妨げている
  • 施行までに、規程・体制の点検、通報者を守る運用ルールの整備、管理職教育と従業員への周知を進める
  • 匿名のまま対話できる経路と通報後のフィードバックが、使われる窓口づくりの土台になる

法改正への対応は、従業員が安心して声を上げられる窓口づくりにつなげることが大切です。通報の経路を見直す際の選択肢として、匿名で対話できる仕組みも検討する価値があります。

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  • 匿名の通報でも、事実確認のやり取りはできますか?
    はい。みんばこでは投稿者が匿名のまま窓口とチャットでやり取りでき、資料などのファイルも添付できます。
  • 従業員にとって声を上げやすい窓口になりますか?
    導入企業からは、電話やメールよりも投稿のハードルが下がったという声をいただいています。
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参考・引用