社内ストーカーへの会社の対応|どこからか・処分と人事の手順

部下や社員から「同僚にしつこくつきまとわれている」と相談を受けたとき、どこからを会社の問題として扱い、どこまで動くべきか迷っていませんか。対応が遅れるほど被害は深刻化し、離職や法的責任にもつながります。本記事では、会社として問題にする線引きから初動対応、事実確認と処分、警察・弁護士との連携、再発防止の仕組みまで、人事・管理職が取るべき手順を解説します。

目次

社内ストーカーはどこからか:会社として問題にする線引き

「社内ストーカー」は法律用語ではありませんが、会社が対応すべき範囲はストーカー規制法の要件よりも広く、ハラスメントや安全配慮義務の観点から判断する必要があります。

ストーカー規制法の「つきまとい等」と「ストーカー行為」

ストーカー規制法(ストーカー行為等の規制等に関する法律)は、恋愛感情その他の好意の感情、またはそれが満たされなかったことへの怨恨の感情を満たす目的で行われる「つきまとい等」を規制しています。

同僚や上司による行為であっても、法律の要件を満たせば規制の対象となり、職場という場所は例外になりません。

主な類型は、つきまとい・待ち伏せ・見張り・押し掛け・うろつき、監視していると告げる行為、面会や交際の要求、乱暴な言動、無言電話や拒否後の連続した電話・メール・SNSメッセージ、汚物等の送付、名誉や性的羞恥心を害する行為です。

GPS機器や紛失防止タグなどを使った位置情報の無承諾取得等も規制の対象に加えられています。

同じ相手に「つきまとい等」を反復して行うと「ストーカー行為」となり、刑事罰(拘禁刑または罰金)の対象になります。

条文は改正が重ねられているため、最新の内容はe-Gov法令検索のストーカー規制法で確認することが大切です。

一方、嫌がらせ目的の監視など好意の感情が動機でない行為は、規制法の対象外となる場合があります。

規制法の要件より広く、拒否後も続けば対応の目安

規制法に当たらなくても、ハラスメントとして対応が必要なケース

会社が対応すべき範囲は、規制法の要件よりも広いと考えるべきです。

性的な言動を伴うつきまといはセクシュアルハラスメントにあたり、男女雇用機会均等法により事業主には防止のための措置義務が課されています。

上司から部下への行為であれば、労働施策総合推進法に基づくパワーハラスメントの観点からも検討が必要です。

また、企業には労働契約法第5条に基づく安全配慮義務があり、社員が安全に働ける環境を整える責任があります。

被害を把握しながら放置すれば、企業自体が損害賠償を求められるおそれがあります。

近年はテレワークやSNSの普及で、業務チャットでの執拗な個別連絡や私的SNSの監視など、目に見えにくい形のつきまといにも注意が必要です。

軽微な段階(しつこい誘い・業務外の連絡)をどう扱うか

「まだストーカーとまでは言えない」段階、たとえば食事への執拗な誘いや業務と関係のない私的な連絡が続くケースでも、相手がはっきり嫌がっている場合や、断った後も続いている場合は、会社として注意・指導を検討するラインになりえます。

被害者が「大げさに思われるかもしれない」と申告をためらいやすい点も、この段階の特徴です。

早い段階で介入するほうが、被害者にとっては被害の拡大を防げ、加害者にとっても重い処分に至る前に行動を改める機会になります。

双方の負担を小さくする意味でも、相談の時点で軽く扱わない姿勢が欠かせません。

ただし判断は事案によって異なるため、線引きに迷う場合は社労士や弁護士に相談することをおすすめします。

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相談を受けたときの初動対応

相談を受けた直後の対応が、その後の事実確認や処分の判断、被害の拡大防止を左右します。記録の確保、安全確保、プライバシー保護の3点を並行して進めます。

聞き取りと記録の取り方

聞き取りでは、日時、場所、行為の内容、頻度、目撃者の有無、証拠(メッセージのスクリーンショットや通話履歴など)を確認します。

記録は担当者の解釈を交えず、被害者の言葉をそのまま書き留めることが原則です。

聞き手を複数にする場合は、被害者が話しやすいよう同性の担当者を同席させるなどの配慮も求められます。

注意したいのが、聞き手の何気ない一言が二次被害になることです。

「あなたにも隙があったのでは」「相手も悪気はないと思う」といった発言は、被害者に相談したことを後悔させ、以降の申告をためらわせます。

まずは最後まで話を聞き、相談してくれたことを受け止めたうえで、今後の進め方と記録の扱いを説明するのが適切です。

記録・安全確保・秘密保持を同時に進める

被害者の安全確保(席・シフト・動線の調整)

事実確認と並行して、被害者と加害者の接点を減らす措置を検討します。

具体的には、座席の変更、シフトや勤務時間帯の分離、出退勤時刻をずらす、在宅勤務の活用、担当業務や出席する会議の見直しなどが考えられます。

社外での待ち伏せが懸念される場合は、出退勤の動線にも目を配る必要があります。

このとき原則としたいのが、被害者側に不利益が生じない形で調整することです。

被害者だけを異動させたり、勤務条件を悪くしたりすると、相談したこと自体が罰のように受け取られかねません。

どの措置を取るかは被害者の意向を確認しながら決め、実施後も状況に変化がないか定期的に確かめることが大切です。

プライバシー保護と二次被害の防止

相談内容を知る人の範囲は、対応に必要な最小限にとどめます。

管理職や同僚に共有する場合も、伝える内容と相手を事前に被害者と確認しておくことが望まれます。

また、ハラスメントの相談をしたことを理由に、評価や配置で不利益に取り扱うことは、男女雇用機会均等法や労働施策総合推進法でも禁止されています。

加害者からの報復を防ぐには、事実確認の段階で相談者が特定されないよう聞き取りの順序や伝え方を工夫することも重要です。

職場でうわさが広がると、被害者が孤立したり、事実と異なる情報が拡散したりするおそれがあります。

関係者には守秘を求め、憶測による発言を控えるよう伝えておくと、二次被害の防止につながります。

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相談が早く上がる職場をつくるには

つきまといやハラスメントは、本人が声を上げにくいまま深刻化しやすい問題です。名前を明かさずに小さな違和感から相談できる窓口があると、会社が早い段階で状況を把握し、動きやすくなります。

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事実確認と処分の判断

処分は、公正な事実確認と就業規則上の根拠があって初めて正当性を持ちます。加害者の立場や貢献度にかかわらず、同じ基準で判断することが組織の信頼を守ります。

加害者・関係者への事実確認の進め方

事実確認は、まず被害者から聞き取りを進めることへの同意を得て、次に目撃者などの第三者、最後に加害者という順で進めるのが基本です。

第三者の証言を先に集めておくことで、加害者が否認した場合にも事実関係を判断しやすくなります。

聞き取りの内容は、日時と同席者を含めて記録に残します。

加害者には弁明の機会を必ず与えます。

この段階では「やったのは分かっている」といった決めつけや、処分をにおわせる言い方は避け、事実の確認に徹します。

あわせて、調査期間中は被害者への接触や業務外の連絡を控えるよう明確に指示し、守られない場合は別の問題として扱うことも伝えておくと抑止になります。

就業規則を根拠に、行為に見合う処分を選ぶ

注意・指導から懲戒までの段階と処分の相当性

対応は、行為の程度に応じて段階的に考えます。

軽微な段階であれば口頭での注意・指導、改善が見られなければ書面による注意、さらに悪質な場合は懲戒処分を検討します。

懲戒の種類は会社によって異なりますが、就業規則で譴責、減給、出勤停止、降格、諭旨解雇、懲戒解雇などを定めている例が一般的です。

懲戒処分を行うには、就業規則に懲戒事由と種類が定められていることが前提になります。

そのうえで、行為の悪質さや回数、反省の有無、過去の処分歴などに照らして相当であることが求められ、重すぎる処分は無効と判断されるおそれもあります。

就業規則の定めや事案により結論は異なるため、必要に応じて弁護士・社労士に相談してください。

加害者が上司・評価の高い社員の場合

加害者が被害者の上司である場合、直属の指揮命令系統で対応すると、被害者が本音を話しにくく、圧力がかかるおそれもあります。

被害者のさらに上の上長や人事部門が直接対応し、必要に応じて加害者を被害者の指揮命令系統から外す措置を検討します。

評価面談や人事考課に加害者が関与しないよう、評価への影響を排除することも欠かせません。

よくあるのが、加害者が成績優秀な営業職や管理職で、会社への貢献度を理由に処分をためらってしまうケースです。

しかし立場や実績によって基準を変えると、「声を上げても守ってもらえない」という認識が職場に広がり、被害者の離職や相談の減少を招きかねません。

誰に対しても同じ基準で判断することが、組織の信頼を保つ土台になります。

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警察・弁護士に相談する判断の目安

社内の対応だけでは被害者の安全を守りきれない場面があります。警察や専門家に相談する目安を把握しておくことで、判断の遅れを防げます。

警察への相談を検討すべき状況

社外でのつきまといや待ち伏せ、自宅への押し掛け、脅迫めいた言動がある場合や、社内で注意した後も行為が続く場合、被害者が身の危険を感じている場合は、警察への相談を検討すべき状況といえます。

ストーカー規制法には、警察による警告や、都道府県公安委員会による禁止命令などの仕組みが設けられています。

ただし、警察がどのような措置を取るかは事案ごとに判断されるため、相談すれば必ず特定の対応が取られるとは限りません。

緊急でない相談には警察相談専用電話「#9110」を利用でき、差し迫った危険があるときは110番通報を優先します。

会社は被害者の同意を得たうえで、社内の記録の提供や相談への同行といった形で支援できます。

身の危険や社外の行為があれば早めに外部へ

弁護士・社労士に相談すべき場面

社内の判断だけで進めると、後に処分の有効性や対応の適否が争われるおそれがあります。

特に、懲戒処分を検討するとき、加害者が事実を否認しているとき、被害者または加害者から法的措置を示唆されたとき、解雇を検討するときは、早めに弁護士や社労士へ相談しておくと安心です。

顧問の専門家がいない場合でも、事案の初期段階で一度相談しておくと、聞き取りの方法や記録の残し方について助言を得られます。

対応の経緯を時系列でまとめた資料を用意しておけば、相談の時間を短縮でき、判断の根拠も明確になります。

外部の視点を入れることは、社内の思い込みや立場への遠慮を避けるうえでも有効です。

被害を受けた本人の対処は別記事で案内

この記事では会社としての対応を中心に扱っているため、被害を受けた社員本人ができる対処、たとえば記録の残し方や日常での自衛策、気持ちの整理の仕方などは詳しく取り上げていません。

相談者に対しては、会社の対応方針を伝えるとともに、本人が自分でできることもあわせて案内できると安心感につながります。

社員にあわせて案内できる情報としては、社内のつきまといへの対策をまとめた記事が参考になります。

会社の対応と本人の対処を並行して進めることで、被害者が一人で抱え込まずに済み、状況の変化も早く共有されやすくなります。

相談窓口の場所も、あわせて改めて伝えておくとよいでしょう。

社内のつきまといを撃退!効果的な対策と実践方法を徹底解説

再発防止:早い段階で相談が上がる仕組みづくり

つきまといは、風通しが悪く相談しにくい職場ほど表に出にくく、長期化しやすい問題です。再発防止の要は、小さな段階で相談が上がる仕組みを整えることにあります。

相談窓口の周知と匿名で相談できるルート

相談窓口を設けても使われない背景には、「誰に話が伝わるか分からない」「大ごとにしたくない」という不安があります。

さらに「言っても変わらない」という雰囲気がある職場では、被害を打ち明けること自体が難しくなり、相談を受けた時点で既に被害が進行していることも少なくありません。

株式会社パーソル総合研究所「職場の対話に関する定量調査」(2024年)では、全国の正規雇用就業者6,000人のうち、職場で本音を話せる相手が「1人もいない」と答えた人は50.8%でした。

また同社「職場の対話に関する定量調査(報告書)」(2024年)は、本音を抑える6つのリスクのうち、真剣に受け止めてもらえない・言っても何にもならないと感じる「無関心リスク」が強いほど、社内で本音を話さなくなる傾向があると分析しています。

こうした状況を踏まえると、対面の窓口に加えて、名前を明かさずに小さな違和感から相談できる匿名のルートを用意しておくことに意味があります。

周囲に知られる不安や評価への影響の心配が和らげば、深刻化する前に声が届きやすくなると考えられます。

窓口は設置して終わりにせず、定期的に周知し、受けた相談への対応を示し続けることが大切です。

匿名ルートと方針の明記で小さな声を拾う

管理職研修とハラスメント方針への明記

再発防止の土台として、就業規則やハラスメント防止方針に、つきまとい行為や業務外の執拗な連絡を禁止行為および懲戒事由として明記しておきます。

ルールが明文化されていれば、社員に許されない行為を具体的に示せるうえ、実際に処分を検討する際の根拠にもなります。

方針は社内報や研修を通じて全社員に周知します。

あわせて、相談を最初に受けることが多い管理職に向けて、初動対応の研修を行うことが有効です。

聞き取りの姿勢、記録の取り方、人事への報告ルート、二次被害につながる発言の例を共有しておけば、対応のばらつきを防げます。

さらに匿名アンケートなどで定期的に職場の実態を把握すると、表に出ていない問題の兆しに気づきやすくなります。

人事担当が少ない小規模企業での体制づくり

人事担当者が1人しかいない小規模な会社では、相談先がその担当者に限られ、加害者と担当者が近い関係にあると相談しにくいという課題があります。

また、担当者一人で聞き取りから処分の判断までを抱えると、負担が大きく対応が遅れがちです。

体制が小さいからこそ、社外の力を組み合わせる発想が欠かせません。

具体的には、顧問の社労士や弁護士に外部相談窓口を委託する方法や、社外の匿名相談ツールを使って相談の受け皿を補う方法があります。

社内で話しにくい内容でも外部や匿名のルートなら伝えやすく、担当者は受け取った情報をもとに専門家と連携して対応を進められます。

窓口の選択肢を複数用意しておくことが、小規模企業での早期発見につながります。

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よくある質問

Q. 加害者が「好意からの行動だった」と主張した場合、どう対処すればよいですか?

A. 本人が好意からの行動だったと主張しても、それだけで問題がなくなるわけではありません。ストーカー規制法は、そもそも恋愛感情その他の好意の感情を満たす目的で行われる行為を対象にしています。会社としての判断でも、本人の意図より「相手が拒否しているか」「業務や心身に影響が出ているか」を重視し、相手が望まない行為であれば注意・指導の対象とするのが基本です。

Q. 被害者が「公式な対応は望まない、ただ聞いてほしかっただけ」と言った場合は?

A. 被害者の意向を尊重することが前提ですが、相談を受けた内容は日時とともに記録しておきます。そのうえで、相談者が特定されない形で状況を見守る、職場全体にハラスメント防止の注意喚起を行うといった選択肢を示すとよいでしょう。ただし、身の危険がうかがえるなど危険性が高い場合は、意向とは別に安全確保を優先する判断が必要になることもあります。

Q. 加害者が被害者の上司だった場合、会社はどう対応すべきですか?

A. 加害者が直属の上司の場合は、被害者のさらに上の上長や人事部門が対応窓口となり、直属の系統で処理しないことが重要です。調査や処分の判断が出るまでの間も、評価面談や業務指示の関係を切り離すなどの措置を検討します。そのうえで、役職や実績にかかわらず就業規則に基づいて判断し、ほかの社員と同じ基準で処分の要否を決めることが組織の信頼につながります。

Q. ストーカー行為で警察が動く基準はありますか?会社から警察に相談すべきですか?

A. 警察が措置を取るかどうかは事案ごとに判断され、一律の基準があるわけではありません。ストーカー規制法には、警察による警告や公安委員会による禁止命令などの仕組みがあります。社外でのつきまといや身の危険がある場合は、早めに警察相談専用電話「#9110」などへの相談を検討します。会社は被害者の意向を確認したうえで、記録の提供や同行で支援できます。差し迫った危険があるときは110番通報を優先します。

Q. 被害者と加害者を引き離す場合、どちらを異動させるべきですか?

A. 原則として、被害者に不利益が生じない形で接点を減らすことを優先し、被害者だけを一方的に異動させることは避けるべきです。加害者の配置転換を検討する場合は、就業規則上の根拠や業務上の必要性を確認し、懲戒処分とは区別して扱います。被害者自身が異動を希望する場合もあるため、意向を丁寧に確認し、どの措置を取るかを一緒に決めていく姿勢が大切です。

Q. 匿名の相談で、被害者や加害者が特定できない場合はどう対応すればよいですか?

A. 匿名の相談だけでは個別の事実確認や処分に進めない場合もありますが、職場で何らかの問題が起きている兆しとして受け止めることが大切です。部署全体へのハラスメント防止の周知や管理職による見守りの強化など、特定の個人を名指ししない対応から始められます。匿名のままやり取りできる仕組みがあれば、相談者の不安に配慮しながら状況を聞き取り、必要に応じて実名での相談へつなげることもできます。

まとめ

この記事のポイント
  • 会社が問題にする範囲はストーカー規制法の要件より広く、断られた後も続く行為は注意・指導を検討するラインになりうる
  • 初動では記録の確保・安全確保・プライバシー保護を並行して進め、被害者に不利益が生じない形で接点を減らす
  • 事実確認は被害者の同意を得て第三者、加害者の順に進め、処分は就業規則の根拠と相当性に基づき、迷う場合は弁護士・社労士に相談する
  • 社外でのつきまといや身の危険がある場合は、被害者の意向を確認したうえで警察(#9110など)や専門家と連携する
  • 小さな段階で相談が上がる仕組みがあると、深刻化する前に会社が動ける

声を上げにくい悩みを早めに拾うには、匿名で相談できる窓口を日常的に用意しておくことが有効です。

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参考・引用